日本のトンボ「カワトンボの仲間」
Japanese Dragonflies Calopterygidae
report from Yokohama, Fukuyama city.
カワトンボの仲間について

 


カワトンボ科 Calopterygidae



 カワトンボ科は春から夏にかけて、水辺でひらひらと涼し気にゆっくりと飛ぶ大型のイトトンボです。一般的なイトトンボと比べると倍ほど大きいので、「イトトンボ」というとちょっとイメージが合わないかもしれませんが、分類上はイトトンボの仲間となります。カワトンボの仲間では一般的には夏に川で水遊びをしているときによく見かける、黒い羽をしたハグロトンボが一番有名かもしれません。
 本来これらの種はイトトンボのページでまとめて紹介する予定でした。しかしこのカワトンボ科の中で「カワトンボ」でひとくくりにされることの多い「ニホンカワトンボ」と「アサヒナカワトンボ」という2種については、色変わりが非常に多いことと、両者が非常によく似ていて生息地も重なっていたりするもので、自分でもよくわからないくらいに同定が難しい種となっています。せっかくなので過去の記録を遡って検証してみようと思い、これらを並べているうちに紹介する絵がとても多くなってしまい、思い切って別ページで紹介することとしました。

 ニホンカワトンボとアサヒナカワトンボについてはトンボの専門書を見ても最終的にはDNA解析をしないと正確な同定は難しいことが書かれています。ただ色々な文献を見ると、色や特徴、生息地などでおよその判別は可能とも書かれているため、今回はそれらの情報をもとに自分なりに2種に分けて紹介させてもらうことにしました。
 以下の紹介の確実性については新潟県十日町市のニホンカワトンボの個体については正確さ80%以上、福山市のアサヒナカワトンボについて、♀に関しては70%以上、福山市の♂のニホンカワトンボとアサヒナカワトンボについては正確さ60%くらいかと思っています。

 私は普段トンボを撮るときは鳥用の機材で撮っていることもあって、姿全体を詳細に写そうとはしておりません。大抵は周囲を含めた一枚の絵として成り立つように必要以上に近づくようにはしていません。絞りも開き気味で眼に焦点を当てて撮っているので、眼以外はボケていることがほとんどです。最近は同定用に腹の先端に合わせて撮っておくことも増えましたが、翅まで詳細に記録しようとはしていなかったため、今回の2種の同定で肝となる翅の検証では非常に苦労しました。絵作りとは別に同定用に色々な角度から撮っておくことが大事だと今頃になって反省している次第です(O型由来の詰めの甘さかもしれませんね)。




「ニホンカワトンボ ♂ 橙色 成虫 1」 クリックで拡大します

ニホンカワトンボ ♂ 1

新潟県十日市市
1024×682 px
2022/06/18
Nikon D500 Mode A
AF-S NIKKOR 500mm f/4E FL ED VR

 色々な情報を見る限り、新潟県で私が観察と記録を行った場所では、過去にニホンカワトンボしか記録されていない場所なようです。
 また上の写真は橙色で翅の不透明部4段くらいで認められるため、これは高確率でニホンカワトンボの♂であろうと思われます。



「ニホンカワトンボ ♂ 橙色 成虫 2」 クリックで拡大します

ニホンカワトンボ ♂ 橙色 成虫 2

広島県福山市
1024×682 px
2015/05/31
Nikon D7100 Mode A
Tamron A011 150-600mm / F5.6-6.3

 こちらは広島県福山市での記録です。図鑑を見るとこの地域ではどちらの種も生息地と書かれております。色々な特徴を見ると、中間的な特徴も多くて迷うところが多いのですが、全体的にはニホンカワトンボよりの特徴が多そうなので、あまり自信はないものの、ニホンカワトンボだろうという結論に落ち着きました。



「ニホンカワトンボ ♂ 橙色 未成熟」 クリックで拡大します

ニホンカワトンボ ♂ 橙色 未成熟

広島県福山市
1024×682 px
2013/05/06
Nikon V1 Mode A
Nion AiAF ED 300mm F4s

 この個体は翅の縁紋(先端近くで濃い色の長方形をしたポイントがあるところ)が白いです。一般的にカワトンボの縁紋は ♂ が橙色、♀ が白色とされていますが、♂ でも羽化して間もない個体はまだ縁紋が白いことが知られています。この個体の腹先端を見ると ♂ であることがわかりますので、♂ の未成熟個体だとわかります。



「ニホンカワトンボ ♂ 透明 成虫」 クリックで拡大します

ニホンカワトンボ ♂ 透明 成虫

新潟県十日市市
1024×682 px
2022/06/18
Nikon D500 Mode A
AF-S NIKKOR 500mm f/4E FL ED VR

 記録した場所からニホンカワトンボであると思われます。透明翅個体の場合、翅の節や筋が比較的見やすくて、この個体はニホンカワトンボの特徴とされる部分と一致していることがわかるので、ニホンカワトンボとしてよいだろうと思っています。



「ニホンカワトンボ ♀ 透明 成虫」 クリックで拡大します

ニホンカワトンボ ♀ 透明 成虫

新潟県十日市市
1024×682 px
2022/06/18
Nikon D500 Mode A
AF-S NIKKOR 500mm f/4E FL ED VR

 上と同じ新潟の観察場所で記録した ♀ 個体です。

 私のニホンカワトンボの観察記録は5/5~6/28までです。観察するにはGW~梅雨時がベストかと思います。




「アサヒナカワトンボ ♂ 橙色 成虫」 クリックで拡大します

アサヒナカワトンボ ♂ 橙色 成虫

広島県福山市
1024×682 px
2013/05/06
Nikon V1 Mode A
Nion AiAF ED 300mm F4s

 アサヒナカワトンボの ♂ 橙色型は、ニホンカワトンボの同様の個体と比べて、やや色目が薄めで透明度が高いと書かれています。ただ同じことは未成熟体にも言えることで、中々鵜呑みにもできません。この個体は色目に加えて縁紋が既に赤色化していることと、翅の節の粗さなどを見てアサヒナカワトンボの可能性が高いと思い、こちらに判別しています。自信のほどは少々弱くて、ざっと60%くらいでしょうか。




「アサヒナカワトンボ ♂ 橙色 未成熟」 クリックで拡大します

アサヒナカワトンボ ♂ 橙色 未成熟

広島県福山市
1024×682 px
2013/05/06
Nikon D7100 Mode A
Tamron A011 150-600mm / F5.6-6.3

 アサヒナカワトンボの ♂ 橙色型 未成熟個体です。先端付属器の形状と縁紋が白いことから♂の未成熟個体であるとわかります。このトンボはたまたま翅の網状の節が見えやすく記録できていて、アサヒナカワトンボの特徴を強く持っていることから同定はほぼ間違いないだろうと思っています。



「アサヒナカワトンボ ♂ 透明 成虫」 クリックで拡大します

アサヒナカワトンボ ♂ 透明 成虫

広島県福山市
1024×682 px
2015/05/16
Nikon D7100 Mode A
Tamron A011 150-600mm / F5.6-6.3

 アサヒナカワトンボの ♂ 透明型成虫です。



「アサヒナカワトンボ ♂ 透明 未成熟」 クリックで拡大します

アサヒナカワトンボ ♂ 透明 未成熟

広島県福山市
1024×682 px
2012/05/05
Nikon V1 Mode A
Nion AiAF ED 300mm F4s

 アサヒナカワトンボの ♂ 透明型の未成熟個体です。腹の先端は♂の特徴がありますが、縁紋は白色なので未成熟個体だとわかります。



「アサヒナカワトンボ ♀ 透明」 クリックで拡大します

アサヒナカワトンボ ♀ 透明

広島県福山市
1024×682 px
2014/05/12
Nikon D200 Mode A
Tamron A011 150-600mm / F5.6-6.3

 アサヒナカワトンボの ♀ 透明型個体です。この絵のみ他の絵と色目が違うのは、この絵のみD200で撮った絵だからです。

 アサヒナカワトンボの観察記録は4/29~8/9日まであります。ただ8/9日は中国山地の高原にある湿地で撮ったものです。実際のところ、22日ある観察記録のうち20日分は4/29~6/7日の短い期間に固まっているため、観察にベストな時期は5月一杯くらいだろうと思います。




「アオハダトンボ ♂」 クリックで拡大します

アオハダトンボ ♂

広島県三次市
1024×682 px
2015/07/26
Nikon D7100 Mode A
Tamron A011 150-600mm / F5.6-6.3

 最近になってWebページを作りこみするにあたり、あらためて自分の記録を図鑑と見比べながら見直ししていたところ、「ハグロトンボ」に似た「アオハダトンボ」という種がいることを知りました。今更ですが過去記録をひっくり返してアオハダトンボを探してみると該当する個体が一つだけ見つかりました。
 福山在住時代を思い返すと、「翅が黒いカワトンボは皆ハグロトンボだ!」と信じ込んでいた私でありました。アオハダトンボは川の中流域あたりに多いと聞きますので、今後そのような場所に行くときはしっかり意識して観察しようと思います。
 ここで紹介する絵は広島県の山の中にある湿地帯で撮りました。当然ながら「またハグロトンボかー!」と思って適当に撮っているので、絵も(バックも)しょぼいものしか残っていませんでした。残念。なお、この個体が「ハグロトンボ」ではなくて「アオハダトンボ」だという確証については、自信のほどおよそ60%くらいです。ぼやけていますが、腹先端の下側が白く見えるのと、翅が太く丸みを帯びて見えるあたりで判断しています。




「ミヤマカワトンボ ♂ 側面」 クリックで拡大します

ミヤマカワトンボ ♂ 側面

広島県福山市
1024×682 px
2015/06/13
Nikon D7100 Mode A
Tamron A011 150-600mm / F5.6-6.3

 ミヤマカワトンボは名前の通り山の中の渓流沿いでよく見かけるカワトンボです。羽色は一色で茶色を基本に、先端手前に濃い茶色の大きな斑紋があります。サイズもカワトンボよりまだ大き目なため、よく目立つトンボです。観察するなら少し山に入って渓流沿いに歩き、川に大きな岩などがあればその岩の付近を探すと見つかりやすいと思います。
 羽色は ♂ ♀ ともに同じ色目ですが、腹の色に関しては少し違います。♂ はハグロトンボやアオハダトンボのように青緑系の金属光沢をしていてきれいです。♀の方は茶色い感じで少し地味です。胴に関しては ♂ ♀ 共に赤銅色をしていて、少し輝く感じでこれもきれいです。



「ミヤマカワトンボ ♂ 斜め側面」 クリックで拡大します

ミヤマカワトンボ ♂ 斜め側面

広島県福山市
1024×682 px
2015/06/28
Nikon D7100 Mode A
Tamron A011 150-600mm / F5.6-6.3

 顔を前から見ると眼は黒っぽい茶色ですね。カワトンボの中では全体的に地味な感じです。またミヤマカワトンボは ♂ も ♀ も縁紋(翅の先の前側にある小さな長四角の点模様)がありません。基本トンボには皆縁紋がありますが、ミヤマカワトンボは例外なのだそうです。



「ミヤマカワトンボ ♀ 側面」 クリックで拡大します

ミヤマカワトンボ ♀ 側面

広島県庄原市
1024×682 px
2020/07/18
Nikon D500 Mode A
AF-S NIKKOR 500mm f/4E FL ED VR +
AF-S TC-14E III TC14E3

 ♀には白い縁紋が見えますが、先に書いた通り、これは実は「縁紋」ではなく「偽縁紋」という模様であって正式な縁紋ではないそうです。



「ミヤマカワトンボ ♀ 斜め後ろ」 クリックで拡大します

ミヤマカワトンボ ♀ 斜め後ろ

広島県福山市
1024×682 px
2012/07/29
Nikon D200 Mode A
Tamron A011 150-600mm / F5.6-6.3

 4枚目の紹介でやっと岩の上に乗った絵となりました。山の中で川沿いの道や橋の上を歩いているとき、このように岩の上にいるのを見つけることがもっとも多いパターンです。川の岩場は遮るものがないので、濃い色をしたミヤマカワトンボは止まっていてもよく見立ちます。ただしこれをアップで撮るためには先に川まで降りていかなければならないので、「見つける」=「水辺のよい絵を撮れる」とは中々ならないものです。やはりなんでもそうは簡単にはいかないものですね。

 私のミヤマカワトンボの観察記録は7日あって、6/13~7/29日までとなっています。ニホンカワトンボやアサヒナカワトンボよりは季節が一月くらい遅れる印象です。




「ハグロトンボ ♂ 側面」 クリックで拡大します

ハグロトンボ ♂ 側面

広島県福山市
1024×682 px
2012/08/26
Nikon V1 Mode A
Nion AiAF ED 300mm F4s

 ハグロトンボは川の下流域で見られるカワトンボの仲間です。下流域といっても川付近に限らず、田んぼの水路など民家近くでもよく見られるので一般的にもポピュラーなトンボだと思います。探すなら少し日陰になった場所が好きな感じなので、池の縁の木の枝の影になったあたりを探すのがよいと思います。
 上で紹介する絵は、福山時代の私の自宅の庭で撮ったものです。すぐ横に田んぼの水路があって、水路に沿った我が家の生垣の裏側が丁度日陰になるためそこによく潜んでいました。蚊や刺し虫などを餌にしてくれる、我が家の心強い用心棒でした。



「ハグロトンボ ♂ 背面」 クリックで拡大します

ハグロトンボ ♂ 背面

広島県福山市
1024×682 px
2013/07/13
Nikon D200 Mode A
Nion AiAF ED 300mm F4s

 ハグロトンボは飛んでくると一旦羽を閉じて止まります。そして感覚的にはざっと10秒毎程度で、翅をゆっくり横に開いて、開ききった瞬間今度はぱっと素早く閉じます。夏の暑さをウチワで扇いでいるかのような動きなので、ハグロトンボを見ているとなんとなく涼しさを感じるものです。



「ハグロトンボ ♀ 側面」 クリックで拡大します

ハグロトンボ ♀ 側面

広島県福山市
1024×682 px
2013/08/04
Nikon D200 Mode A
Nion AiAF ED 300mm F4s

 ハグロトンボには ♂ ♀ 共に縁紋がありません。特にハグロトンボはアオハダトンボと姿が似ていて判別が難しいのですが、アオハダトンボの ♀ には偽縁紋という白い縁紋風のワンポイントが翅の先にあり、はっきりと区別できます。また観察地で偽縁紋を持たない♀個体しかみかけないなら、♂ もやはり皆ハグロトンボだろうという大きなヒントになります。



「ハグロトンボ ♀ 正面」 クリックで拡大します

ハグロトンボ ♀ 正面

広島県福山市
1024×682 px
2020/07/19
Nikon D500 Mode A
AF-S NIKKOR 500mm f/4E FL ED VR +
AF-S TC-14E III TC14E3

 こちらも先の ♂ の絵と同じく翅を一番大きく開いた瞬間の絵です。開いた羽が立って見えるので、正面から見るとクジャクが尾羽を開いたみたいな感じに見えます。♂ に比べると羽の色は茶系で少し透き通っているのがわかります。

 私のハグロトンボの観察記録は12日あって7/2日~9/6日までとなっています。上で先に紹介したカワトンボ類の中では発生時期が一番遅いようです。「真夏のトンボ」の印象です。







 私が福山で野鳥・昆虫観察のホームグラウンドとしていた自然公園では、4月の終わり頃にカワトンボ祭りな日を経験しています。笹が両側から生い茂った山の小道を歩いていると、「一歩進む度に横からカワトンボが出てくる!」みたいな感じで数えきれないほどのカワトンボに囲まれました。当時はもう面倒くさくなってカメラも向けずに通り過ぎてしまいましたけれど、横浜に来てからはカワトンボと出会える場所も少なくなり、今更ながら当時が羨ましく思えます。我ながら勝手なものだと思う今日この頃です。



 


 

              2023/8 魚屋 拝




(TOP画像 カワトンボ 2015/04/29 D7100 150-600mm/F5.6-6.3 福山市)