ツクシガモ 筑紫鴨
Tsukushigamo
Tadorna tadorna
Common Shelduck

ツクシガモ カモ目カモ科 絶滅危惧Ⅱ類 VU
 白・黒・茶の三色が美しい
 干潟に依存する大柄なカモ
 

   

ツクシガモについて



 ツクシガモは珍しく地域の名前が付いたカモです。筑紫地方とは福岡県西部で福岡から柳川あたりまでがそれに当たります。柳川は有明海沿岸の町ですが、ツクシガモは正にこの有明海と深い結びつきがあります。
 有明海は日本有数の干潟を持つ大きな内湾です。内湾の中でも潮の出入口が狭くて奥が深い(広い)海は、月の周回運動と同期が出来なくなる分干満差が大きくなります。このような場所は干潮時に岸辺が露出して干潟となり、ここを餌場とする鳥たちの楽園となるわけです。関東だと東京湾の船橋三番瀬や盤州干潟が有名ですし、伊勢湾では名古屋市の藤前干潟が、瀬戸内海なら中央部の岡山や広島にはまだところどころに干潟が残っていて、それぞれ水鳥な有力な飛来地となっています。
 これら日本の干潟の中でも別格にスケールが大きいのが有明海の干潟です。中でも旧名「大授搦」として有名な東よか干潟は、私も以前3度ほど観察に寄らせてもらっており、水鳥が好きな人間にとっては夢のような場所だと言えます。今回はここでの観察を中心にツクシガモを紹介させてもらおうと思っています。






「ツクシガモ ペア?」 クリックで拡大します。

ツクシガモ ペア?

佐賀県 2014/12/30
1024×682 px
Nikon D7100 Mode A
Tamron A011 150-600mm / F5.6-6.3


 私が初めてツクシガモを観察できた場所は岡山県の汽水池でありました。ここで見るツクシガモは冬の間を過ごす小群れです。よくみかけるマガモやカルガモなどと同じく普段は水面に浮かんでおり、ときどき逆立ちスタイルで餌を探すという行動を見せていました。
 しかし、その後に本場有明の干潟で見たツクシガモは、岡山のものとは全くイメージが違うものでした。彼らはなんと、干潟の泥をそのまま食んでいるではありませんか。。もちろん泥を餌にしていきる鳥類などいるはずもありませんので、泥の中に潜む虫やら甲殻類、貝類などを餌にしているのだと思いますが、とにかくくちばしを泥に挿して、首を振り振り前に進むのです。当然、口の中は泥だらけなはず。。「マジか?こんなカモがいるんだ。。」と、目の前の光景にたいそう驚かされたことを今もはっきり思い出します。
 ツクシガモはそもそもが同族のカモ類の中でも見た目がかなりきれいなカモです。白地にレンガ色と黒の模様があって、クチバシは赤。非常に上品な姿をした鳥だけに、その採餌姿にはとても大きなギャップを感じざるを得ませんでした。




「有明のツクシガモ 干潟の群れ」 クリックで拡大します。

有明のツクシガモ 干潟の群れ

佐賀県 2014/12/30
1024×682 px
Nikon D7100 Mode A
Tamron A011 150-600mm / F5.6-6.3
(焦点距離170mmで撮影)

 ツクシガモの群れです。周囲180°を見渡したとき、おそらく数百の群れがいたと思います。
 時間は午後13:48分なので、まだ昼間です。この干潟は南向きに面した干潟なので、この時間はどうしても逆光の中の観察となり、いくら撮ってもモノトーンな風景にしかなりません。ただ後々振り返ってみますと、返って冬の海っぽい感じになったかな?などと感じたりもします。そもそも現場での光景もこんな感じでしたので。。当たり前か。。
 ちなみにこのとき干潟にいた他の水鳥はズグロカモメとダイシャクシギ、ダイゼンなどでありました。有明の干潟は私にとってはもう一度行きたい野鳥観察地ナンバー1な場所です。
 



「岡山のツクシガモ 小群れ」 クリックで拡大します。

岡山のツクシガモ 小群れ

岡山県 2014/01/03
1024×682 px
Nikon V1 Mode A
Nion AiAF ED 300mm / F4s + KenkoテレコンPro1.4


 福山在住の頃、毎冬、岡山の干拓地にあるいわゆる調整池に水鳥観察に行っていました。周囲が木々に守られ、目隠しされた観察所も水面から50mほどは離れていたので、鳥たちも安心するのかたくさんの水鳥達が羽を休ませに集まっていました。私が初めてツクシガモに出会ったのもこの池です。遠めに見てもきれいな姿だったので、「もっと近くで見たいな。写したいな」といつも思っていたのを思い出します。
 (この絵のカメラとレンズは動画を撮るのに用意したものですが、35mm換算だと1134mm相当になります。その分絵が荒いのは仕方ありませんね)

 この時期のツクシガモは雌雄同色でこぶもまだ膨らまないので雌雄判別は難しいです。ただ、顔が見えているどちらの個体も、栗色の帯模様が少し太く見えるのとクチバシが結構太目で赤色も強いため、おそらく ♂ だろうと思われます



「動物園のツクシガモ ♂ こぶ有り」 クリックで拡大します。

動物園のツクシガモ こぶ有り

広島県福山市立動物園 2011/11/20
1024×682 px
Nikon D200 Mode A
Ai AF Micro Nikkor 60mm / F2.8S


 図鑑によるとツクシガモは生殖羽のときクチバシの上部に立派なこぶが発達するとあります。上の絵のとおり、子供と一緒にでかけた地元の動物園で見るツクシガモは、確かに見事なこぶがありました。ところがその後私が自然環境で見るツクシガモは、ことごとく皆こぶが見あたりません。岡山で見ても佐賀でみてもやはりこぶはなく、おでこは完全にしぼんだ感じです。当時は「日本は越冬地なのできっと春を過ぎた繁殖時期に(海外の繁殖地で)こぶができるのだろう」と思って勝手に納得しておりました。
 しかし、よくよく考えてみると、上の動物園での記録は11月のものです。11月は、たぶん繁殖時期とはかけ離れた時期のはず。「動物園だからライフサイクルが狂ってしまっているのだろうか?」など考えてみましたが、理由として今一納得がいきません。結局のところツクシガモのこぶ(の季節)は私にとって未だ大きな謎のままです。




「ツクシガモと思わしき羽毛」 クリックで拡大します。

ツクシガモと思わしき羽毛

佐賀県有明海の干潟で拾得 2014/12/28
1024x682 px
Nikon D200 Mode A
Ai AF Micro Nikkor 60mm / F2.8S


 こちらは佐賀の干潟でツクシガモを観察しているとき、足元の塩生植物の枯れた枝に引っかかっていた羽毛です。羽根のサイズや形状からおそらくカモ類の肩羽だと予想されます。周囲にいるカモはツクシガモのみ。なのでこの羽根もおそらくツクシガモのものなのだろうと思われます。(カモから引っこ抜いたわけではないので確証はありませんが自信のほどは85%くらいです)
 一応手持ちの「羽原寸大図鑑」でも調べてみましたが、ツクシガモの羽根に関してはあまり記載がありませんでした。自分が撮ったツクシガモの写真をみると、確かに背中にこの羽のような栗色をした部分がありますので、おそらくここから抜けた羽根でないかな?と考えている次第です。





観察データ

場所と回数:佐賀県 1、岡山県 3、計4回(動物園のカウントは除く)。基本的に干潟に飛来するカモです。岡山の観察地は非常に浅い池(汽水)でしたので、ツクシガモが好む餌があったのかと思います。最近茨城の霞ヶ浦周辺でもツクシガモが見られるとの情報があったので、餌になるものがあれば淡水でも観察できるようです。
 ツクシガモが全国的に飛来地を増やしているということは、本来集団で飛来していた九州の干潟が段々と減ってきているからなのだ、という話があります。真相はわかりませんが、諫早干拓が壁で閉鎖されたあと、それまで見られなかった日本の各地に流出が始まったようにも聞きますので、噂は本当なのかもしれません。どちらにしろ日本にわずかに残る干潟を、未来に向けて大切にしていきたいと願っています。

観察月と回数:

1月1 〇
2月0
3月1 〇
4月0
5月0
6月0
7月0
8月0
9月0
10月0
11月0
12月2 〇〇
計4回

冬鳥です。やや大型の白いカモなので、いればすぐに見つけられると思います。



 (トップ画像 ツクシガモ ♀ D7100 150-600mm / F5.6-6.3 2014/12/28 佐賀県有明海)
 背中から胸に続く栗色の帯が細いのでこの個体は ♀ だと思われます)

初出:2015/06/06
改訂:2017/12/25 文章の校正
改訂:2018/6/7 福山市立動物園の絵を追加
改訂:2021/08/12 カモ科(水面採餌型種)へのリンクを追加、観察データを追加
全面改訂:2024/01/31