コウノトリ 鸛
Kounotori
Ciconia boyciana
Oriental stork
 
コウノトリ コウノトリ目コウノトリ科
 幸福を運んで来てくれる
 ツルに似た姿の大型の水鳥
 

   

豊岡市コウノトリの郷公園での観察について
 


コウノトリのこと、動画
 
 皆さんもよく御存じだとは思いますが、コウノトリは日本で一度「絶滅」を記録した種です。大きく美しい鳥がゆえ良く目立ち、人に狙われて悲しい結末に行きついたのです。
 昔、コウノトリは国内で普通に繁殖する鳥でした。しかし1900年代に入って一気に生息数が減り、戦中の混乱(乱獲・捕食)と戦後の急激な環境破壊が元で、いつしか豊岡と福井に少しの数を残すだけとなってしまいます。ここまできて人々もやっと危機に気づき、国内でも保護活動が開始されましたが、時すでに遅し。1986年に国内産コウノトリはとうとう絶滅に至りました。その最後の一羽は兵庫県豊岡市で保護されていた個体でした。
 しかし幸いにもコウノトリには以前から不定期に日本へ渡来する個体がおり、そういう意味では完全な絶滅と言えるものではありません。かように先の「絶滅」には「日本繁殖個体群の野生絶滅」という注釈がついたわけです。しかし人々に昔から愛され、民話などでも語られてきた日本を代表する種の連面が途絶えてしまったことは、日本中で大きな反省の声が沸き、また自然保護の大切さがあらためて見直される契機となりました。
 
 今回私が出かけた豊岡市の「兵庫県立コウノトリの郷公園」ですが、実は前述の「最後の一羽」が死ぬ1986年より20年も前から保護と増殖の目的で建てられていたとのことです。つまりコウノトリの種としての危機は絶滅の20年前から認識され、種の存続に手だてが取られていたということになります。しかし一度棲息数が一桁にまで落ち込むと復活はそう簡単ではありません。結局、努力の甲斐なく日本産コウノトリはここで一端幕引きとなってしまったわけです。
 一方、この危機に並行してロシア(当時のソ連)や中国から複数のコウノトリが日本に譲られておりました。受け入れ先の国内各地の動物園等でコウノトリの繁殖が試まれており、各所で繁殖の成功が報告されるようになります。豊岡のコウノトリの郷公園でもロシア産コウノトリの繁殖が成功し、絶滅後6年経った1992年からは本格的に野生復帰計画も開始されるまでになりました。そして2005年にはついに自然界への放鳥がなされるのです。それから10年以上たった今では、放鳥個体からの繁殖に寄る孵化と巣立ちも確認され、今後の本格的な野生定着に希望が持たれているところです。
 豊岡で見た大空を舞うコウノトリの姿は、ツルの飛翔と同じで誠に優雅で美しいものでした。人の手助け無く、この景色が「普通」になることを祈るばかりです。(2015年3月)
 
 豊岡でコウノトリを見てから5年半以上経った2020年11月のこと。私は冬の猛禽類目当てに、非常に大きな葦原がある渡良瀬遊水池へ鳥観察に出かけました。近くに沼のある場所でハイイロチュウヒなど出てこないかと立ちんぼしていましたところ、白い大きな鳥が飛んできました。「ダイサギ?いやもっと大きい」。すると横にいた方が「コウノトリだ!」と言われてはじめてその鳥がコウノトリだと気づきました。
 慌ててカメラを向けて、ついに自然界で生きるコウノトリたちの姿を記録することができました。ちなみにこの日見たコウノトリは4羽ほどでしたが、実際には5羽がここで棲息しているとのこと。私が見る限り、うち一羽には足環が見られませんでした。人の管理が追いつかないほど、自然繁殖が進んでいる証拠です。一方、この地で営巣していたペアのメスは今年、足を怪我したことが原因で死んでしまったとニュースでみています。個体数が少ないといつまた絶滅に至るかわからないのでまだまだ保護が必要だとは思いますが、それでも豊岡の保護施設から遠く離れたこの地でコウノトリが空を舞う姿を見られ、少し大げさですが感無量の対面でありました。
 
 動画は前半の明るい絵が豊岡でのもの。後半の少し薄暗い沼の絵が渡良瀬でのものです。どちらの場所でも周囲で人の声が入っているので音声は消してあります。残念ながら音はお聞かせできませんが、コウノトリは鳴き声の代わりにくちばしを叩き合わせて「コココココ」と連続した音(クラッタリング)を出してコミュニケーションしているシーンがあります。ただ叩くだけでなく赤く見える喉を大きく膨らませて音を出しているようですね。左「コウノトリの動画」のサムネイルをクリックしてご覧下さい。サイズは32MBありますのでDL環境にご注意ください。
 

コウノトリ
 
 コウノトリを似たような生存環境にあるトキやツルと比べてみましょう。
 1.トキは国内留鳥が絶滅したのはコウノトリと同じです。更にトキの絶滅時、国外でも生息が中国の内陸部の一部に限られ、しかも当時は数が100羽程度と極端に少なかったため、国内への飛来はほぼ見込めませんでした。従って留鳥に限らずとも国内では二度と姿を見られないという判断になり、完全に国内絶滅状態と認定されました。(現在は中国も日本も自然繁殖が進むに迄回復され、「絶滅」から「絶滅危惧1A」にまで戻っています)
 2.鹿児島県のマナヅルやナベヅルは主にロシア方面で数千羽規模の個体数があり、繁殖場所も皆国外であります。しかし、越冬地としては大半が日本の鹿児島県出水市に飛来するため、国内で保護活動を進めなければ国内はもとより世界的にも簡単に絶滅に進んでしまう可能性が高い状況にあります。 もちろん私が未だ見ぬタンチョウも同じ危機(実際はもっと深刻でコウノトリに近いレベル)にあります。
 このように種によって多少の危機度は違うものの、皆人間社会からの保護がなければ簡単に絶滅に至ってしまうものばかりです。「人による保護」と言えば聞こえは良いのですが、その環境を狭めているのは我々人間なので、「保護」も言わば人による自作自演です。仮に時間はかかっても、「あらゆる生物と共存できる人間社会」というものを確立したいものであります。
 ここで紹介するお休み中のコウノトリは見ての通り全ての個体に足環(の色と数)による個体識別番号が与えられています。飼育ケージは天井が無く、どこへ飛んで行くことも鳥達の自由なのですが、皆なかなかここを離れられない様子でした。いつの日かこの足環の無い自由気ままなコウノトリを見てみたいものですね。
 
 左「コウノトリ」のサムネイルをクリックしてご覧下さい。
 

コウノトリの飛翔 1~3
 
 2015年3月に兵庫県豊岡市のコウノトリの郷で大空に舞うコウノトリたちを見てから5年後の2020年暮れのこと。豊岡から直線距離で450kmほどある渡良瀬遊水池へ鳥見の観察に出かけました。当日はあいにくの曇り空。本命の狙いである猛禽類も姿が見えないまま、時間は16時に近くなりました。「もう今回はだめかも。。」と思ったそのとき、大きなサギのような白い鳥が目の前の沼に舞い降りました。コウノトリです。興奮してその姿を追っていますと、幸いなことに次々とコウノトリたちがこの沼に飛んできてくれました。その数4羽。うち一羽は背中にGPSをしょっていましたので、今年奥さんを亡くしたヒカル君でしょうか。
 
 左「コウノトリの飛翔」のサムネイルをクリックしてご覧下さい。
 

観察データ

場所と回数:兵庫県豊岡市1、栃木県渡良瀬遊水池周辺1、都合2回。近頃は九州、中国、近畿、中部、関東など各地でコウノトリの移動が見られるそうです。

観察月と回数:

1月0
2月0
3月1 〇
4月0
5月0
6月0
7月0
8月0
9月0
10月0
11月0
12月1 〇
都合2回
留鳥ですが移動も多いようです。


 
 (トップ画像 コウノトリのモビールとコウノトリの折り紙 2015/03/28 D7100 150-600mm/F5.6-6.3 豊岡市コウノトリの郷公園にて購入及び寄付に対するいただきもの)
 
 初出:2015/04/02
 改訂:2018/06/19 飛翔絵を差し替え
 改訂2:2020/12/30 渡良瀬での動画と飛翔絵を追加、文章の追加と見直し